京から始める腎臓ノート

腎臓のことについて勉強したこと+α

特発性好酸球増多症(IHES)の腎病変を有する患者における臨床的、および病理学的特徴

気づいたらほったらかしにしていたこのblog。アウトプットが大事だと気を入れ替えて続けて行こうと思います。

近医から発熱、腎機能障害で紹介になった患者さん、腎機能障害だけではなく、掻痒感・落屑を伴う皮膚病変や肺の浸潤影なども見られたため入院加療に。

 

ただ、新規薬剤もあるので入院時からすべてストップし精査を行っていました。

結局好酸球増多症は改善せず、マルクやBAL、腎生検の結果特発性好酸球増多症と診断が付きました。

 

腎生検の結果は間質性腎炎は見られており好酸球も少し浸潤していますが、血中の好酸球も5000/μLを超えており、そら浸潤も多少あるだろうと。。。

腎障害の原因が果たして好酸球増多症によるものなのかどうか気になったので読んでみました。

 

Dong JH, Xu ST, Xu F, Zhou YC, Li Z, Li SJ. Clinical and morphologic spectrum of renal involvement in idiopathic hypereosinophilic syndrome. Clin Exp Nephrol. 2021 Mar;25(3):270-278. doi: 10.1007/s10157-020-02012-5. Epub 2021 Jan 4. PMID: 33398597.

 

要旨
18人の患者を分析
11人がネフローゼ症候群 6人が腎機能障害
 
15人で腎生検を施行
膜増殖性糸球体腎炎が3名、微小変化型が3名、メサンギウム増殖性腎炎が2名、IgA腎症が2名、膜性腎症が2名、慢性間質性腎炎が2名、巣状分節性硬化症が1名
腎間質への好酸球浸潤が11名、糸球体への好酸球浸潤が3名
 
グルココルチコイドの治療で好酸球数は減少した。
フォローできた15人のうち14名で腎機能改善や尿蛋白の減少が見られた。
グルココルチコイド中止で8例で好酸球増加、1例で尿蛋白増加、1例で末期腎不全に進行した
 
腎不全を伴う、もしくは伴わないネフローゼ症候群が主な臨床症状。
幅広い腎病変が観察され、間質への好酸球浸潤が一般的。
殆どの患者はグルココルチコイド治療後の予後が良好。
 
・特発性好酸球増多症(Idiopathic hypereosinophilic syndrome: IHES)は、末梢の好酸球が増加し、多臓器に障害が発生することを特徴とする病的な症候群である。
IHESは、主に皮膚、心臓、肺、神経系、消化管に影響を及ぼすが、腎臓への影響はまれ。
IHES患者の腎病変についてはあまり報告されておらず、わずかな症例が報告されているのみである。
 
・臨床症状
19~67歳の男性13名、女性5名。
6名(33.3%)の患者には、発熱、衰弱、関節痛などの全身症状があり、発熱が主な症状であった。
5名(27.8%)は,四肢の皮膚を中心とした丘疹と蕁麻疹を主症状とする発疹があり,掻痒感を伴っていた。
そのうち、2名は皮膚生検でEOSの浸潤が見られた。
5名(27.8%)の患者が呼吸器症状を発症したが、たいてい特異的な画像所見の見られない慢性乾性咳嗽を呈した。さらに、発症時にCTで肺浸潤影を伴う喘息が見られるものもいた。
5名(27.8%)の患者には消化器症状があり、主に腹部膨満感、腹痛、下痢などの症状が見られた。そのうち、1名は腸管穿孔を起こし、生検で好酸球、好中球浸潤が認められ、1名はびまん性の腸壁肥厚と幽門側胃壁肥厚を起こし、1名は脾臓肥大を起こした。
2名(11.1%)の患者が末梢神経炎を発症し、手足のしびれや痛みを呈した。
4名(22.2%)の患者にリンパ節腫脹があり、その多くは頸部と脇の下に存在した。
そのうち、3名はリンパ節炎、1名はリンパ節生検で好酸球の浸潤が認められた。
7名(38.9%)に心電図異常が認められ、T波変化、心室性期外収縮、完全右脚ブロックなどの所見が見られた。
2名(11.1%)の患者に心臓超音波の異常が見られ、そのうち1名には心膜肥厚、1名には左心室拡張機能障害が見られた。2名とも、呼吸困難、胸痛、胸部圧迫感、動悸などの循環器系症状は認められなかった(Table1)

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今回の研究では、15名の患者が腎障害を発症し、ほとんどの患者が発症時に腎外症状と腎障害を並行して呈していた。
腎外症状で発症したのは3名のみ。
16名の患者がタンパク尿を呈し、9名の患者に顕微鏡的血尿が認められた。腎症状としては、11名(61.1%)の患者にネフローゼ症候群が認められ、2名の患者にAKIが認められた。6名の患者は腎機能が低下しており、全員がCKDであった。
尿中の好酸球が陽性だったのは1名のみだった(Table1、2)。
すべての患者の血中EOS濃度は1670〜15,100/ulと著しく高かった。
そのうち、8名(44.4%)は軽度の正常な正球性正色素性貧血であった。骨髄細胞診では、成熟したEOSの割合が最大で64%に達していた。また、骨髄F/P融合遺伝子検査を受けた5名の患者は陰性であった。全例でIgEが顕著に上昇したが、肝機能、心筋ザイモグラム、腫瘍マーカー、抗好中球細胞質抗体スペクトラム、便中寄生虫検出では異常を認めなかった。
 
・病理所見
15名の患者が腎生検をうけた。
膜増殖性糸球体腎炎3名(20%)、微小変化型3名(20%)、メサンギウム増殖性腎炎2名(13.3%)、IgA腎症2名(13.3%)、膜性腎症2名(13.3%)、慢性間質性腎炎が2名(13.3%)、巣状分節性硬化症が1名(6.7%)であった。
2名(13.3%)、慢性間質性腎炎2名(13.3%)、巣状分節性硬化症1名(6.7%)。
また、11人(73.3%)の患者の腎間質に好酸球の浸潤が見られ、局所的な分布を示していた。
さらに、3名(20%)の患者の糸球体にも好酸球の浸潤が見られた(Fig1)。
間質には400power fieldあたり最大10〜45個、糸球体には1個あたり3〜5個の好酸球が存在した。
免疫蛍光検査では、12人の患者において、糸球体の係蹄やメサンギウム領域にIgG、IgA、IgMと補体C3の沈着が示唆された(Table3)。
 
 

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・治療
18人全てがグルココルチコイド単独、もしくは免疫抑制剤を併用した治療を受けた。
数日後には血中EOS数が減少した。15人の患者が6カ月から84カ月の間、追跡調査を受け、14人(93.3%)が尿蛋白の低下または陰性化を認め、腎機能が回復または安定していたが、尿蛋白が改善せず、血清クレアチニンが上昇した1人(6.7%)もいた。
8名(53.3%)はステロイド減量または中止後に好酸球値が上昇し、1名は尿蛋白増加、末期腎不全に移行した1名は血清クレアチニンが上昇していた(Table3)。
 
・Discussion
Ogboguらの研究では、IHESは、皮膚(69%)、肺(44%)、消化管(38%)、神経(21%)、心臓(20%)、脾臓(10%)に影響を及ぼすことが示唆されている。
(Ogbogu PU, et al. Hypereosinophilic syndrome:a multicenter, retrospective analysis of clinical characteristics and response to therapy. J Allergy Clin Immunol. 2009;124:1319–25.)
本研究では、18名の患者において、腎病変が圧倒的に多く(100%)、次いで皮膚(27.8%)、肺(27.8%)、消化管(27.8%)、末梢神経(11.1%)の順であった。
 
リンパ節腫大を併発した場合、木村病との鑑別が必要
Churg-Strauss症候群も腎臓間質に好酸球浸潤が見られることもあり鑑別が必要
 
腎障害はネフローゼ症候群が多い。
特に重度の腎障害を持つ患者では末期腎不全に至るものもある。
腎障害は様々な病型を取る。
 
腎障害の機序は不明だが、好酸球の浸潤と炎症性メディエーターの放出が関係していると考えられる。
好酸球は腎組織で凝集し、活性化された後に好酸球顆粒タンパク質を放出し、好酸球カチオンタンパク質、主要塩基性タンパク質、ペルオキシダーゼ、酸素フリーラジカルなどの細胞傷害性因子を含むため腎障害を誘発する。
IHESの中には腎臓を侵すものもあるが、腎生検で好酸球の浸潤が認められないものもあり、腎障害が直接EOSの浸潤によって完全に引き起こされるわけではないと考えられる。
好酸球はまた、トランスフォーミング成長因子αおよびβ、腫瘍壊死因子α、インターロイキン6およびインターロイキン8などの複数のサイトカインを分泌することで、免疫反応を誘導することができる。
一方、腎組織の好酸球浸潤を検出する前に、好酸球の脱顆粒により通常の染色が陰性化している可能性も否定できない。IHESによる好酸球性心筋症の患者の心筋生検では、好酸球の浸潤は認められない。しかし、免疫組織化学で検出されるように、損傷した心筋に好酸球性顆粒の沈着が見られることがある。
さらに、IHESによる血栓性微小血管症の患者では、糸球体好酸球の浸潤と脱顆粒が見られ、免疫組織化学では糸球体と輸出細動脈に主要な塩基性タンパク質の沈着が示唆されている。このように、好酸球顆粒タンパク質は、好酸球の浸潤がなくても標的臓器の障害を引き起こすことがある。現時点では、IHES治療後に血中好酸球数が正常レベルに戻った後、好酸球顆粒が組織や臓器にどのくらいの期間維持されるのか、また、これらのタンパク質が持続的な組織傷害の主な原因となるのかは不明である。
 
治療はグルココルチコイド1mg/kg/dayが有効。少量ステロイド免疫抑制剤を併用することもある。
数日で好酸球の減少が見られるが、ステロイド減量中に再発する可能性が高い。
今回の研究では、15名の追跡調査対象者の93.3%が、ホルモン療法後に尿蛋白の減少または陰性化、腎機能の回復または腎機能の安定を示した。しかし、53.3%の患者がホルモン剤の減量・中止後に好酸球数のリバウンド、腎障害の再発、さらには末期腎臓病への進行が見られた。
臨床症状が寛解したからといって、ステロイドの休薬は難しい。
少量ステロイド免疫抑制剤の使用が好ましい。
 
 
臨床症状や病理組織からは好酸球増多症による腎障害としても良さそうですが、新規薬剤があるため薬剤性の間質性腎炎でも矛盾しないし。。。そもそも頻度から言うと薬剤性の方がはるかに多いわけで。悩ましい。
結局ステロイドを投与するという意味では変わらないかもしれませんがモヤモヤが残る結果となりました。
今度病理の会で聞いてみようと思います。