京から始める腎臓ノート

腎臓のことについて勉強したこと+α

免疫チェックポイント阻害薬によるAKIのリスクファクターと生命予後

最近免疫チェックポイント阻害薬が周囲で使用される機会が増えてきました。

腎臓内科が主体で使うことは殆どないため、あまり声がかかることは少ないのですが、以前免疫チェックポイント阻害薬を使用して血球貪食症候群、急性腎不全を起こした時はかなり大変なことになりました。その時参考にした論文がこちらです。

Hemophagocytic lymphohistiocytosis with immunotherapy: brief review and case report

やっぱり慣れてない薬の副作用が出た時には焦ります。

 

今回CENにこのような論文が載っていたので読んでみました。

Incidence and risk factors of acute kidney injury, and its effect on mortality among Japanese patients receiving immune check point inhibitors: a single-center observational study

 

概要
背景:免疫チェックポイント阻害剤(ICPis)は多臓器の免疫関連副作用を伴う。
ここでは、日本人患者におけるICPisに合併した急性腎不全(ICPi-AKI)の発生率、回復率、危険因子を調べ、ICPi-AKIと死亡率との関連を評価した。
方法:2015年から2019年にICPisを投与され治療継続した152名の患者を分析した。ICPi-AKI発生の危険因子を特定するためにロジスティック回帰分析を行い、ICPi-AKIと死亡率との関連を評価するためにCox回帰分析を行った。
結果:患者の平均年齢は67±10歳で、ベースラインの血清クレアチニン値の中央値は0.78mg/dLであった。27名(18%)の患者がICPi-AKIを発症し、そのうち19名(73%)が回復した。ICPi-AKI発症の有意なリスク因子として、ペンブロリズマブ(キイトルーダ®)の使用と肝疾患が挙げられた。追跡期間中、85人(59%)が死亡し、それぞれICPi-AKIを発症した17人(63%)とICPi-AKIを発症しなかった68人(54%)が死亡した。ICPi-AKIの発生率は死亡率とは独立して関連していなかった(調整後のハザード比、0.85;95%信頼区間、0.46-1.61)。
結論:今回の結果から、ペンブロリズマブの使用と肝疾患はICPi-AKIの発症リスクが高いことが示唆されたが、ICPi-AKIは死亡率に影響しなかった。ICPisを投与されている患者のこの合併症に対する最適な管理および予防戦略を策定するために、今後の多施設共同研究が必要である。
 
f:id:mark_nephrologist:20210826160825p:plainf:id:mark_nephrologist:20210826160848p:plainf:id:mark_nephrologist:20210826160650p:plainf:id:mark_nephrologist:20210826160725p:plain○この研究で得られた重要な知見
・肝疾患の存在がICPi-AKIの独立したリスクファクターである
慢性HCV感染症に対するICPisとソホスブビルをベースとした抗ウイルス療法の併用が、ICPi-AKIを発症させる素因となる
ICPisと肝硬変によるアンモニア生成による尿細管間質の損傷の相乗効果。 
未治療の代謝性アシドーシスが同様のメカニズムで補体活性化を引き起こし、腎尿細管間質障害を引き起こす 

・ICPi-AKIは死亡率に影響を与えない

・ICPi-AKIからの回復は患者の生存とは関連しない
PPIとICP-AKIの関連性は示されない
 
AKIを起こしても生存率に影響を与えないとするには症例数が少ないのと、腎生検を行った症例が1人だけ(なかなか免疫チェックポイント阻害薬を使用している状況の人に腎生検を行うのは難しいかもしれませんが)なのが引っかかりますが、個人的には今までPPIがAKIのリスクファクターと言われていましたが本研究では有意差が出なかったというところが興味深いところでした。
抗がん剤関連の腎臓における副作用(蛋白尿やCr上昇)などを相談されることが時折ありますが、返事に難渋することが多いです。
腎保護という観点では当然薬の中止が望ましいのですが、生命予後という観点が入ってくるととたんに話が難しくなります。つまり担癌患者さんの病態によっては2年、3年の腎機能保持が必要ない人がいるからです(原疾患で命を落とす可能性が高いため)。
限られた残り時間の中で生命予後と腎予後のバランスを考えて、ある程度腎障害が進んでいっても生命予後が伸びるのであればそのまま薬の使用が望ましいのですが、いかんせん腫瘍を普段扱うことが少ないので生命予後を考えながら結論を出す時に難しいなぁと痛感しています。
これからこのようなコンサルは増えてくると思いますので、Onco-Nephrologyの分野もしっかりと勉強しなければいけないですね。