京から始める腎臓ノート

腎臓のことについて勉強したこと+α

SGLT2阻害薬使用時のinitial dipはほっておいてもいいの?

腎不全が進行したり、糖尿病の初期には糸球体の内圧が上がり過剰濾過という状態になります。

この状態になると糸球体に負担がかかり腎障害が進行していきます。

この過剰濾過を改善するのにSGLT2阻害薬やACE-I、ARB等を使用するのですが、開始初期にには一過性のeGFR低下を経験します。

糸球体過剰濾過の改善方法

 

initial dip

このinitial dipは糸球体内圧が下がったことによる一時的なものと考えられていましたが本当にこのSGLT2阻害薬によるeGFRの落ち込みが腎予後に悪影響を与えないかどうかはわかっていませんでした。

ACE阻害薬、ARBでももちろん糸球体内圧の低下からinitial dipは起こりますがこちらについては起こってもその後腎機能の低下が緩やかになることがわかっています。

ARBを使用した時にinitial dipがあった者はその後eGFR低下速度が遅くなる

ただ30%以上eGFRが低下した方は減量、もしくは中止を検討する必要があります。

30%以上のeGFRの低下には注意。

患者さんによってはeGFRが低下すると内服を辞めてしまう方がおられます。

僕は「過剰濾過は残業も土日出勤もさせてブラック企業のような働き方をさせている状態で、こんな会社は長く続きません。糸球体を定時で帰らせてあげて、休日も休ませてあげる働き改革をしてあげているんです。最初は業績は落ちますが、長い目で見ると長持ちする会社になるんですよ。」と説明しています(笑)

腎臓にも働き改革を!

と入っても本当に大丈夫なのかどうか?という疑問に対する一つの答えを示してくれる論文を読んでみました。

このデータを見ているとinitial dipが起こった群ではeGFRの低下速度がACE-I、ARBと同様にゆっくりになると言う結果。

30%どちらも以上eGFRが低下した群としなかった群の比較もされており、長期的なeGFRの低下は同程度ということでした。

ただ、Limitationにもあげられていましたが30%以上低下した人数が少なかったので、きちんとした評価をするには検出力不足と思われます。

この結果で30%以上eGFRが下がっても大丈夫というのは注意が必要です。

とはいえ、やはりinitial dipはある程度起こっても大丈夫そうなので安心しました。

 

適応を間違えなければsGLT2阻害薬はやはりいい薬だと思います。

適応はまだまだ難しいところもありますが、それはまた別の機会に。。。

腎生検を使用した予後予測の有用性

Biopsy-proven CKD etiology and outcomes: Chronic Kidney Disease Japan Cohort (CKD-JAC) study

Nephrology Dialysis Transplantation, gfac134, https://doi.org/10.1093/ndt/gfac134

 

腎生検を使用した予後予測の有用性についての論文です。

やはり原疾患を意識することは大事ですね。

後輩達にも、「病名のところをCKDとだけ記載してるけど、その原疾患まで意識することが専門医としては必要だよ」とよく言うんですが、これだけ生命予後や腎予後が違うのであればやはり慢性腎不全と同一に扱わずにそれぞれの原疾患で考えていく事が必要です。

個人的には腎生検で腎硬化症や糖尿病性腎症等が合併していることがあると思いますがその場合はどのカテゴリーに入れたのか気になりました。おそらく腎炎があればそちらのカテゴリーに入れてるんだと思いますが。

 

でも大事な研究ですね。

 

 

造影剤使用と6ヶ月後における腎機能の影響

院内抄読会で読むためにまとめてみました。

 

アウトカムをAKIではなく、6ヶ月後の腎機能としていることと、検証の仕方が面白い論文だなぁと思います。

最近色々な分野で造影剤は腎機能に影響を与えないので気にしなくていいんだよーという講演や発表を見ることがありますが、自分としてはまだ手放しに影響が全く無いとは言いづらいと思っています。

ただ、以前考えていたほどの影響は無いだろうなという感じです。

せめて時間があるなら他のAKIを起こす可能性があるような内服薬を中止したり脱水を改善してから撮りましょう、でも緊急事態など必要ならば腎機能を気にする必要は無いので撮ってください!というスタンスです。

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特発性好酸球増多症(IHES)の腎病変を有する患者における臨床的、および病理学的特徴

気づいたらほったらかしにしていたこのblog。アウトプットが大事だと気を入れ替えて続けて行こうと思います。

近医から発熱、腎機能障害で紹介になった患者さん、腎機能障害だけではなく、掻痒感・落屑を伴う皮膚病変や肺の浸潤影なども見られたため入院加療に。

 

ただ、新規薬剤もあるので入院時からすべてストップし精査を行っていました。

結局好酸球増多症は改善せず、マルクやBAL、腎生検の結果特発性好酸球増多症と診断が付きました。

 

腎生検の結果は間質性腎炎は見られており好酸球も少し浸潤していますが、血中の好酸球も5000/μLを超えており、そら浸潤も多少あるだろうと。。。

腎障害の原因が果たして好酸球増多症によるものなのかどうか気になったので読んでみました。

 

Dong JH, Xu ST, Xu F, Zhou YC, Li Z, Li SJ. Clinical and morphologic spectrum of renal involvement in idiopathic hypereosinophilic syndrome. Clin Exp Nephrol. 2021 Mar;25(3):270-278. doi: 10.1007/s10157-020-02012-5. Epub 2021 Jan 4. PMID: 33398597.

 

要旨
18人の患者を分析
11人がネフローゼ症候群 6人が腎機能障害
 
15人で腎生検を施行
膜増殖性糸球体腎炎が3名、微小変化型が3名、メサンギウム増殖性腎炎が2名、IgA腎症が2名、膜性腎症が2名、慢性間質性腎炎が2名、巣状分節性硬化症が1名
腎間質への好酸球浸潤が11名、糸球体への好酸球浸潤が3名
 
グルココルチコイドの治療で好酸球数は減少した。
フォローできた15人のうち14名で腎機能改善や尿蛋白の減少が見られた。
グルココルチコイド中止で8例で好酸球増加、1例で尿蛋白増加、1例で末期腎不全に進行した
 
腎不全を伴う、もしくは伴わないネフローゼ症候群が主な臨床症状。
幅広い腎病変が観察され、間質への好酸球浸潤が一般的。
殆どの患者はグルココルチコイド治療後の予後が良好。
 
・特発性好酸球増多症(Idiopathic hypereosinophilic syndrome: IHES)は、末梢の好酸球が増加し、多臓器に障害が発生することを特徴とする病的な症候群である。
IHESは、主に皮膚、心臓、肺、神経系、消化管に影響を及ぼすが、腎臓への影響はまれ。
IHES患者の腎病変についてはあまり報告されておらず、わずかな症例が報告されているのみである。
 
・臨床症状
19~67歳の男性13名、女性5名。
6名(33.3%)の患者には、発熱、衰弱、関節痛などの全身症状があり、発熱が主な症状であった。
5名(27.8%)は,四肢の皮膚を中心とした丘疹と蕁麻疹を主症状とする発疹があり,掻痒感を伴っていた。
そのうち、2名は皮膚生検でEOSの浸潤が見られた。
5名(27.8%)の患者が呼吸器症状を発症したが、たいてい特異的な画像所見の見られない慢性乾性咳嗽を呈した。さらに、発症時にCTで肺浸潤影を伴う喘息が見られるものもいた。
5名(27.8%)の患者には消化器症状があり、主に腹部膨満感、腹痛、下痢などの症状が見られた。そのうち、1名は腸管穿孔を起こし、生検で好酸球、好中球浸潤が認められ、1名はびまん性の腸壁肥厚と幽門側胃壁肥厚を起こし、1名は脾臓肥大を起こした。
2名(11.1%)の患者が末梢神経炎を発症し、手足のしびれや痛みを呈した。
4名(22.2%)の患者にリンパ節腫脹があり、その多くは頸部と脇の下に存在した。
そのうち、3名はリンパ節炎、1名はリンパ節生検で好酸球の浸潤が認められた。
7名(38.9%)に心電図異常が認められ、T波変化、心室性期外収縮、完全右脚ブロックなどの所見が見られた。
2名(11.1%)の患者に心臓超音波の異常が見られ、そのうち1名には心膜肥厚、1名には左心室拡張機能障害が見られた。2名とも、呼吸困難、胸痛、胸部圧迫感、動悸などの循環器系症状は認められなかった(Table1)

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今回の研究では、15名の患者が腎障害を発症し、ほとんどの患者が発症時に腎外症状と腎障害を並行して呈していた。
腎外症状で発症したのは3名のみ。
16名の患者がタンパク尿を呈し、9名の患者に顕微鏡的血尿が認められた。腎症状としては、11名(61.1%)の患者にネフローゼ症候群が認められ、2名の患者にAKIが認められた。6名の患者は腎機能が低下しており、全員がCKDであった。
尿中の好酸球が陽性だったのは1名のみだった(Table1、2)。
すべての患者の血中EOS濃度は1670〜15,100/ulと著しく高かった。
そのうち、8名(44.4%)は軽度の正常な正球性正色素性貧血であった。骨髄細胞診では、成熟したEOSの割合が最大で64%に達していた。また、骨髄F/P融合遺伝子検査を受けた5名の患者は陰性であった。全例でIgEが顕著に上昇したが、肝機能、心筋ザイモグラム、腫瘍マーカー、抗好中球細胞質抗体スペクトラム、便中寄生虫検出では異常を認めなかった。
 
・病理所見
15名の患者が腎生検をうけた。
膜増殖性糸球体腎炎3名(20%)、微小変化型3名(20%)、メサンギウム増殖性腎炎2名(13.3%)、IgA腎症2名(13.3%)、膜性腎症2名(13.3%)、慢性間質性腎炎が2名(13.3%)、巣状分節性硬化症が1名(6.7%)であった。
2名(13.3%)、慢性間質性腎炎2名(13.3%)、巣状分節性硬化症1名(6.7%)。
また、11人(73.3%)の患者の腎間質に好酸球の浸潤が見られ、局所的な分布を示していた。
さらに、3名(20%)の患者の糸球体にも好酸球の浸潤が見られた(Fig1)。
間質には400power fieldあたり最大10〜45個、糸球体には1個あたり3〜5個の好酸球が存在した。
免疫蛍光検査では、12人の患者において、糸球体の係蹄やメサンギウム領域にIgG、IgA、IgMと補体C3の沈着が示唆された(Table3)。
 
 

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・治療
18人全てがグルココルチコイド単独、もしくは免疫抑制剤を併用した治療を受けた。
数日後には血中EOS数が減少した。15人の患者が6カ月から84カ月の間、追跡調査を受け、14人(93.3%)が尿蛋白の低下または陰性化を認め、腎機能が回復または安定していたが、尿蛋白が改善せず、血清クレアチニンが上昇した1人(6.7%)もいた。
8名(53.3%)はステロイド減量または中止後に好酸球値が上昇し、1名は尿蛋白増加、末期腎不全に移行した1名は血清クレアチニンが上昇していた(Table3)。
 
・Discussion
Ogboguらの研究では、IHESは、皮膚(69%)、肺(44%)、消化管(38%)、神経(21%)、心臓(20%)、脾臓(10%)に影響を及ぼすことが示唆されている。
(Ogbogu PU, et al. Hypereosinophilic syndrome:a multicenter, retrospective analysis of clinical characteristics and response to therapy. J Allergy Clin Immunol. 2009;124:1319–25.)
本研究では、18名の患者において、腎病変が圧倒的に多く(100%)、次いで皮膚(27.8%)、肺(27.8%)、消化管(27.8%)、末梢神経(11.1%)の順であった。
 
リンパ節腫大を併発した場合、木村病との鑑別が必要
Churg-Strauss症候群も腎臓間質に好酸球浸潤が見られることもあり鑑別が必要
 
腎障害はネフローゼ症候群が多い。
特に重度の腎障害を持つ患者では末期腎不全に至るものもある。
腎障害は様々な病型を取る。
 
腎障害の機序は不明だが、好酸球の浸潤と炎症性メディエーターの放出が関係していると考えられる。
好酸球は腎組織で凝集し、活性化された後に好酸球顆粒タンパク質を放出し、好酸球カチオンタンパク質、主要塩基性タンパク質、ペルオキシダーゼ、酸素フリーラジカルなどの細胞傷害性因子を含むため腎障害を誘発する。
IHESの中には腎臓を侵すものもあるが、腎生検で好酸球の浸潤が認められないものもあり、腎障害が直接EOSの浸潤によって完全に引き起こされるわけではないと考えられる。
好酸球はまた、トランスフォーミング成長因子αおよびβ、腫瘍壊死因子α、インターロイキン6およびインターロイキン8などの複数のサイトカインを分泌することで、免疫反応を誘導することができる。
一方、腎組織の好酸球浸潤を検出する前に、好酸球の脱顆粒により通常の染色が陰性化している可能性も否定できない。IHESによる好酸球性心筋症の患者の心筋生検では、好酸球の浸潤は認められない。しかし、免疫組織化学で検出されるように、損傷した心筋に好酸球性顆粒の沈着が見られることがある。
さらに、IHESによる血栓性微小血管症の患者では、糸球体好酸球の浸潤と脱顆粒が見られ、免疫組織化学では糸球体と輸出細動脈に主要な塩基性タンパク質の沈着が示唆されている。このように、好酸球顆粒タンパク質は、好酸球の浸潤がなくても標的臓器の障害を引き起こすことがある。現時点では、IHES治療後に血中好酸球数が正常レベルに戻った後、好酸球顆粒が組織や臓器にどのくらいの期間維持されるのか、また、これらのタンパク質が持続的な組織傷害の主な原因となるのかは不明である。
 
治療はグルココルチコイド1mg/kg/dayが有効。少量ステロイド免疫抑制剤を併用することもある。
数日で好酸球の減少が見られるが、ステロイド減量中に再発する可能性が高い。
今回の研究では、15名の追跡調査対象者の93.3%が、ホルモン療法後に尿蛋白の減少または陰性化、腎機能の回復または腎機能の安定を示した。しかし、53.3%の患者がホルモン剤の減量・中止後に好酸球数のリバウンド、腎障害の再発、さらには末期腎臓病への進行が見られた。
臨床症状が寛解したからといって、ステロイドの休薬は難しい。
少量ステロイド免疫抑制剤の使用が好ましい。
 
 
臨床症状や病理組織からは好酸球増多症による腎障害としても良さそうですが、新規薬剤があるため薬剤性の間質性腎炎でも矛盾しないし。。。そもそも頻度から言うと薬剤性の方がはるかに多いわけで。悩ましい。
結局ステロイドを投与するという意味では変わらないかもしれませんがモヤモヤが残る結果となりました。
今度病理の会で聞いてみようと思います。

免疫チェックポイント阻害薬によるAKIのリスクファクターと生命予後

最近免疫チェックポイント阻害薬が周囲で使用される機会が増えてきました。

腎臓内科が主体で使うことは殆どないため、あまり声がかかることは少ないのですが、以前免疫チェックポイント阻害薬を使用して血球貪食症候群、急性腎不全を起こした時はかなり大変なことになりました。その時参考にした論文がこちらです。

Hemophagocytic lymphohistiocytosis with immunotherapy: brief review and case report

やっぱり慣れてない薬の副作用が出た時には焦ります。

 

今回CENにこのような論文が載っていたので読んでみました。

Incidence and risk factors of acute kidney injury, and its effect on mortality among Japanese patients receiving immune check point inhibitors: a single-center observational study

 

概要
背景:免疫チェックポイント阻害剤(ICPis)は多臓器の免疫関連副作用を伴う。
ここでは、日本人患者におけるICPisに合併した急性腎不全(ICPi-AKI)の発生率、回復率、危険因子を調べ、ICPi-AKIと死亡率との関連を評価した。
方法:2015年から2019年にICPisを投与され治療継続した152名の患者を分析した。ICPi-AKI発生の危険因子を特定するためにロジスティック回帰分析を行い、ICPi-AKIと死亡率との関連を評価するためにCox回帰分析を行った。
結果:患者の平均年齢は67±10歳で、ベースラインの血清クレアチニン値の中央値は0.78mg/dLであった。27名(18%)の患者がICPi-AKIを発症し、そのうち19名(73%)が回復した。ICPi-AKI発症の有意なリスク因子として、ペンブロリズマブ(キイトルーダ®)の使用と肝疾患が挙げられた。追跡期間中、85人(59%)が死亡し、それぞれICPi-AKIを発症した17人(63%)とICPi-AKIを発症しなかった68人(54%)が死亡した。ICPi-AKIの発生率は死亡率とは独立して関連していなかった(調整後のハザード比、0.85;95%信頼区間、0.46-1.61)。
結論:今回の結果から、ペンブロリズマブの使用と肝疾患はICPi-AKIの発症リスクが高いことが示唆されたが、ICPi-AKIは死亡率に影響しなかった。ICPisを投与されている患者のこの合併症に対する最適な管理および予防戦略を策定するために、今後の多施設共同研究が必要である。
 
f:id:mark_nephrologist:20210826160825p:plainf:id:mark_nephrologist:20210826160848p:plainf:id:mark_nephrologist:20210826160650p:plainf:id:mark_nephrologist:20210826160725p:plain○この研究で得られた重要な知見
・肝疾患の存在がICPi-AKIの独立したリスクファクターである
慢性HCV感染症に対するICPisとソホスブビルをベースとした抗ウイルス療法の併用が、ICPi-AKIを発症させる素因となる
ICPisと肝硬変によるアンモニア生成による尿細管間質の損傷の相乗効果。 
未治療の代謝性アシドーシスが同様のメカニズムで補体活性化を引き起こし、腎尿細管間質障害を引き起こす 

・ICPi-AKIは死亡率に影響を与えない

・ICPi-AKIからの回復は患者の生存とは関連しない
PPIとICP-AKIの関連性は示されない
 
AKIを起こしても生存率に影響を与えないとするには症例数が少ないのと、腎生検を行った症例が1人だけ(なかなか免疫チェックポイント阻害薬を使用している状況の人に腎生検を行うのは難しいかもしれませんが)なのが引っかかりますが、個人的には今までPPIがAKIのリスクファクターと言われていましたが本研究では有意差が出なかったというところが興味深いところでした。
抗がん剤関連の腎臓における副作用(蛋白尿やCr上昇)などを相談されることが時折ありますが、返事に難渋することが多いです。
腎保護という観点では当然薬の中止が望ましいのですが、生命予後という観点が入ってくるととたんに話が難しくなります。つまり担癌患者さんの病態によっては2年、3年の腎機能保持が必要ない人がいるからです(原疾患で命を落とす可能性が高いため)。
限られた残り時間の中で生命予後と腎予後のバランスを考えて、ある程度腎障害が進んでいっても生命予後が伸びるのであればそのまま薬の使用が望ましいのですが、いかんせん腫瘍を普段扱うことが少ないので生命予後を考えながら結論を出す時に難しいなぁと痛感しています。
これからこのようなコンサルは増えてくると思いますので、Onco-Nephrologyの分野もしっかりと勉強しなければいけないですね。
 
 
 

原発性鎖骨下静脈血栓症 (Paget-Schroetter syndrome)

20代女性の料理人が仕事後に右手が腫れて来たと近医を受診。
仕事中は右手で鍋を振ることが長時間あると。
普段から右手が仕事後に張るようなことはあったが、その日は服がパンパンになるぐらいだった。
若干左手と比べて赤黒い色になっていたので、感染なども含めて精査加療のために当院に紹介となった。
 
来院時痛みもそれほど強くなく、発熱もなかった。
確かに右手が左手に比べて腫脹しており、色も若干赤い。
感染にしてはこれだけ右手全体に症状があったら流石に発熱や、ぐったりしていてもいいもんだが、いたって全身状態は元気であり感染らしさは無い。
 
比較的急な経過であり、静脈の閉塞やリンパ還流障害等を疑いエコーをしようと思ったがあいにく診察室のエコーは故障中。
5階まで駆け上がってエコーを取りに行ってもよいのだが(院内にエコーが少ないのです。。)、CTがすぐに撮れるということだったのでCTを撮影したところ上腕静脈〜鎖骨下静脈まで血栓による閉塞が見られた。
内服歴もなく、そのような素因もなし(採血で凝固系、プロテインC、Sの活性異常無し、APS等の膠原病検索も異常無し)
 
うーん、こんな事があるのだろうかと文献検索したところPaget-Schroetter syndromeが引っかかってきた。
こんな病気があるなんて、お恥ずかしいことだが知らなかったのでレビューを読んでみました。
 
2017,Cardiovasc Diagn Ther.7_S285 Paget-Schroetter syndrome/ treatment of venous thrombosis and outcomes
 
>その前に、発症に胸郭出口症候群(TOS)の存在が重要なようなので復習。
胸郭出口症候群(TOS)胸郭上口(胸骨上縁,第1肋骨,第1胸椎で囲まれる環状構造)から,鎖骨上窩,腋窩に広がる領域において,腕神経叢や鎖骨下動静脈が圧迫されることで生じる
圧迫される構造によって神経性95%、血管性(動脈性1% 静脈性4%)に分類される 

2021, 画像診断 41_555 胸郭出口症候群(図1)
 
疫学 病態生理
Paget-Schroetter症候群(PSS)は、一次性の「effort thrombosis」とも呼ばれ、鎖骨下静脈の圧迫と血栓の両方を伴う。
年間10万人あたり1〜2人の発症率で、静脈血栓症全体の1-4%を占めるまれな疾患。
30代前半の若くて健康な男性が最も多く発症する。
特にリスクが高いのは、野球選手、水泳選手、重量挙げ選手などのスポーツ選手や、機械工や電気工などの腕を頭上で繰り返し動かす労働者。
凝固障害が静脈性胸郭出口症候群(VTOS)のリスクを高めるかどうかは議論の余地があるが、特発性で非誘発性であるなら関与している可能性が高い。
PSSは、胸郭出口内の構造物と静脈系との間で繰り返される異常で激しい相互作用によって引き起こされると考えられる。
腕の外転により鎖骨角と第一肋骨の間の静脈が慢性的に圧迫されると、静脈内皮細胞の損傷、炎症、瘢痕化、そして潜在的血栓症を引き起こす。
VTOS患者の多くは、肋鎖靭帯がより外側に位置しており、鎖骨下静脈の圧迫を助長している。さらに、鎖骨下筋や前斜角筋など、この部位の筋肉の肥大も静脈の圧迫や損傷の原因となる。
 
臨床経過と診断
一般的に誘因となる出来事から24時間以内に発症し、上肢の過度の活動や脱水症状の既往がある。
上肢と胸部は痛み、うっ血し、チアノーゼを呈する。表在静脈が膨張しているように見えることがあり、時には腋窩血栓のある静脈を触知することもある。
 
>この患者さんも仕事後1時間以内に発症しました。
>脇の下にコリコリとしたものを触れ、リンパ節の腫脹ではないかと思っていたようです。
 
PSSは、肺塞栓症(PE)を合併することもある。
肺塞栓症PSSの合併率は20-30%と報告。
上肢深部静脈血栓症(DVT)の中でも、PEは上肢の二次性DVTで発生することが多い。全てのDVTを考慮すると、PEは上肢のDVTよりも下肢のDVTとの関連性が高い。
つまりPSSではPEのリスクは他のDVTの状態に比べて小さいが、可能性を考えておくことが重要。
 
診断:病歴と身体診察で行われ、画像診断で確認する。
duplex超音波検査は診断のゴールドスタンダード 感度、特異度ともに80〜100%と報告されている
カテーテルを用いた静脈造影は侵襲性や、コストの高さから臨床的な疑いが強く、非侵襲的な画像が不明瞭な症例に行う。
非典型的な症状やエコーが不明瞭な場合は周辺の解剖学的な構造を調べるためにCTやMRIを考慮する。
 
上肢DVTでは、血漿中のD-ダイマー濃度が上昇することがあるが、特異度は14~60%。
PSSは稀な疾患であるため、ルーチンのD-ダイマー検査に関するガイドラインは存在しない。
補助的な検査としては有用かもしれないが、確証的な検査としては推奨されない
 
上肢血栓症に対するルーチンの血液凝固性検査は推奨されない。しかし、患者が原因不明の血栓症や家族歴を有する場合には、凝固亢進に対する精査を行うべきである。
凝固亢進に対する検査には、 V因子ライデン変異とプロトロンビン(Factor IIG20210A変異(欧米白人の主要な先天性血栓性素因 日本人からは検出されていない)、アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSの欠損などがある。
また、ループスアンチコアグラントスクリーニングや抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテイン抗体も、臨床管理に役立つ可能性がある。
 
>この患者さんでは凝固異常はありませんでした。
>また、ピルなどの内服、家族歴も見られませんでした。
 
腫瘍のスクリーニングに関してはルーチンには推奨されない。下肢DVTの時と同様の推奨。
年齢や性別に応じて考える。
 
治療:閉塞による症状の緩和、DVTによる合併症の予防、再発の防止が軸となる。
 
抗凝固療法を開始するのが治療の第一段階。
PSSに特化したものではないが、2016年のCHEST Guideline and Expert Panel Report on antithrombotic therapy for VTE diseaseでは、VTE患者で癌がない場合、ビタミンK拮抗薬よりもダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンを推奨している。ビタミンK拮抗薬は、低分子ヘパリンよりも推奨されている。
 
PSSの治療に抗凝固療法単独で行うことは一般的に推奨されない。
血栓溶解療法や手術を含むより積極的なアプローチは、症状の消失や仕事への復帰などにおいて、抗凝固療法単独よりも優れている。
禁忌がなければ、少なくとも5日間の治療的抗凝固療法を行った後、静脈造影を行い、カテーテルによる血栓溶解療法を症状発現後2週間以内に行うことが最適である。
早期のカテーテルを用いた血栓溶解療法の成功率は75~84%と報告されている。
2週間以上経過した血栓の治療は、血栓が慢性化して血栓溶解療法の影響を受けにくいと考えられるため、成功率は低い。
症状が出てから2〜12週間後の血栓溶解療法の成功率は29%と報告している報告もある。
 
抗凝固療法や血栓溶解療法によって初期の症状が緩和されたにもかかわらず、最大で3分の1の患者に再血栓症が起こる可能性がある
そのため、手術の適応になる患者には胸郭出口減圧術が推奨される。
 
PSSに対する抗凝固療法の期間については、コンセンサスが得られていない。2016年のCHEST Guideline and Expert Panel Report on antithrombotic therapy for VTE diseaseでは、血栓溶解療法の介入に関わらず、あらゆる上肢DVT後に3ヶ月の治療コースを推奨している。
また、術後の静脈造影を用いた、よりカスタマイズされたアプローチも提案されている。
静脈の開存が確認された場合、それ以上の治療は必要なく、抗凝固療法を中止することができる。
しかし、持続的な狭窄や再血栓症が確認された場合は、抗凝固療法を継続し、6ヵ月間、月1回、duplex超音波検査を繰り返す。
過去には、持続的な狭窄や再血栓に対して、外科的血栓除去術、バルーン静脈形成術、ステント留置術などの追加措置が行われてきたが、成功率が低く、合併症発症率が高いことから、一般的に初期治療としては推奨されていない
 
HurlbertRutherfordによる病態に応じたアルゴリズムもありました。
(Hurlbert SN, Rutherford RB:Subclavian‒axillary vein thrombosis. Vascular Surgery, 5th ed, ed by Rutherford RB, WB Saunders, Philadelphia, p1208‒1219, 2000)
(2018,整形外科_69_1029 原発性鎖骨下静脈血栓症の1例)
 
診断確定後,カテーテル血栓溶解療法を行う。
血栓溶解成功の場合は引き続き静脈造影を行い
上肢外転位を含めて残存狭窄がなければ抗凝固療法のみ
上肢外転位で狭窄があれば第1肋骨切除
器質的な狭窄があれば第1肋骨切除+静脈形成を行う。
 
血栓溶解不成功の場合は
閉塞病変が短い症例では血栓摘除もしくはステントを留置し抗凝固療法を追加
閉塞病変が長い場合は抗凝固療法
症状が継続する場合は第1肋骨切除+静脈バイパス手術などの外科的介入を行う
 
①~③は鎖骨下静脈の血行の完全な再建を治療の目的としており、胸郭出口症候群が併存している場合には合わせてその治療も行うという考え方
④~⑥は症状の改善を治療の目的としており、ある程度の血流再開もしくは良好な側副血行路の発達が目標
 
ただ、鎖骨下静脈のステント留置に関してはステント破損や再閉塞の可能性があるため意見が別れている。
 
PSS治療後には血栓症後症候群(PTS)として知られる合併症が起こりうる。
これは痛み、重苦しさ、腫れを特徴として慢性的な衰弱状態に起こることがある。
頻度は上肢DVT患者の7-46%で二次性DVTよりも一次性DVTに多く見られる。
すべてのPTSを予防するのは難しいが、早期治療が患者の症状の改善と関係する。
 
PSSを診断して直ちに減圧術を行うことで90-95%の成功率を報告する物もあり、
他の研究でも同様の結果を報告されており早期の外科的減圧術が支持されている。
 
 
 
 
手術を行うかどうかはさておき、迅速な診断と治療が良好な予後を得るためには不可欠だと言うことがわかりました。
幸い今回は来院後すぐに血栓による閉塞とわかり症状が改善傾向だったので、DOAC内服を開始。各種検査を提出して凝固異常が無いことを確認してPSSと診断が付きました。
DOAC内服を先行して診断がついて1週間後にカテーテルにより血栓回収を行ってもらいました。カテーテル前には痛みや発赤もなくなり上腕静脈の血栓もエコーで消失を確認、軽度の腕の腫脹だけになっていましたが、鎖骨下静脈には思っていた以上にかなりの量の血栓が詰まっており、側副路を介して血流が戻っていってる所見でした。
PEのリスクや難治性になることなどを考えるともっと早期にカテーテル治療を行ってもらっていても良かったのかと反省。
 
今後血栓が完全に溶けてから肢位によって狭窄を来すかどうかを確認、胸郭出口症候群が確認できれば手術になるが、若年女性なので手術痕をつけてしまうのが躊躇される。
DOAC+生活指導を行い、妊娠中はヘパリン化するか。。
再発予防に関してはまだまだ御本人との相談が必要そうだ。

シャントを作る事による心機能への影響はどうか?

いつも透析導入の時に長期留置型カフ付きカテーテルにするかシャントを作るか、心機能を見て考えることが多いです。

明確な指標は無く、心不全を繰り返している方、重度の弁膜症がある方、拡張能障害がある方などはシャントを作るのに注意が必要だと思いながら年齢やADLを見て決定しています。

良い論文は無いかと探してみたのですがなかなか難しい。。

 

シャントを作る→心機能や生命予後がどうなるかという研究ではなく、シャントを閉じる→心機能がどう改善するかという研究で調べたかったものと少し方向は違いますが読んでみました。

https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.118.038505

この論文は腎移植後にシャントを閉鎖した患者とそうでない患者の左室心筋重量や心機能を見たRCTです。シャント閉鎖群の方が左室心筋重量の低下、proBNP低下が見られたというものでした。

この結果からシャント作成による心機能低下や生命予後がどうかという事は議論する事はできませんが、やはり一定の影響はあるんでしょうね。まぁ当然といえば当然ですが。

シャント作成前に何か指標が欲しいところです。。。

後、個人的には腎移植後にシャントがそのまま残っている人も多いので、閉鎖することも考えてみようと思いました。

 

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