京から始める腎臓ノート

腎臓のことについて勉強したこと+α

選択的IgM欠損症に伴ったループス腎炎。

ネフローゼ症候群で当院に紹介になった30代の女性。

白血球減少、血小板減少、抗核抗体陽性、低補体血症等SLEを疑う所見であり腎生検を施行しました。

結果ループス腎炎IV型+V型と診断が付きましたが、その患者さんの蛍光染色があまり見ないパターンだったのでご紹介します。

通常ループス腎炎ではフルハウスパターン(蛍光染色ですべて染まる)を取ることが多いですが、この方はIgMが染まっていません。

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蛍光染色

それもそのはずこの方は選択的IgM欠損症も伴っておられたのです。

注意することが無いか、SLEと選択的IgM欠損症について調べてみました。

 

1996,日腎誌.38_185 選択的IgM欠損症に伴ったSLE腎症の一例

http://ginmu.naramed-u.ac.jp/dspace/bitstream/10564/380/1/207-211p.選択的IgM欠損症の1症例.pdf

・選択的IgA欠損症の報告は比較的多いが、選択的IgM欠損症の報告は少ない Community health studyでは0.03%以下と言われており感染症、自己免疫疾患、腫瘍性病変との合併例が報告されている。
自己免疫疾患合併報告例の中ではSLEが最も多い
 
・定義は様々
血清IgM値が正常の10%以下でIgG、IgAの減少が見られないもの
血清IgM値が20mg/dL以下でIgG、IgA値が正常範囲にあり、T細胞、補体及び食細胞機能に異常のないもの
IgG値として3歳以上では47mg/dL以下
 
○2015,Clin Rheumatol.27_212 選択的IgM欠損症を合併した全身性エリテマトーデスの1例
 
・本邦における選択的IgM欠損症(SIgMD)とSLEとの合併例の報告はは10例程度

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原発性のSIgMDは小児期よりしばしば重篤化する細菌感染や真菌感染を繰り返す事により診断されることが多い。無症状で偶発的に発見される場合や、成人になってから重篤感染症を発症したことにより初めて診断される例もある。
・二次性のSIgMDは,自己免疫疾患や悪性腫瘍などに合併することが多い。
橋本病やセリアック病では原疾患の治療によって低下していた血清中のIgMが改善する例が報告されている。
 
原発性のSIgMDは無症状で経過することも多く,本症が診断されるのはSLE発症時あるいは罹患後になるためIgMの低下がヒトにおいてもSLE発症の原因となりうるかはわからない。
SaikiらはSLEの罹患期間が長いほど血清IgMの低下する傾向が認められることを報告しているが、SLE同様に免疫抑制薬を投与されている関節リウマチ患者にはその傾向を認めなかったことからSLEをひきおこすなんらかの病態が血清IgM低下に共通して関与し、二次性にSIgMDを合併している可能性も考えられている。
 
SLEの加療によりその活動性が改善した後に血清IgMが改善した報告はなくSLEの症状の一部として発症している可能性は低いと思われる
 
 
選択的IgM欠損症患者でアスペルギルスと肺炎球菌感染症重篤した例も報告されており、この患者さんにも過度な免疫抑制がかからないように気を使いましたが今の所、感染症の合併は起こっておらず順調に改善しています。
ただ、やはりIgMの値はSLEの活動性が改善しても低いままであり、上記の論文のようにIgM欠損症がSLEの症状の一部として発症している可能性は低いのでしょうか。
 
IgMが少ないので当然蛍光の染まりも弱くなるのですが、初めてこのような所見をみたので感動しました。

高齢発症のIgA血管炎に対するミゾリビン、低用量ステロイド併用療法の有効性

最近高齢発症のIgA血管炎を診ることが多く、先週また新たに高齢発症のIgA血管炎の患者が入院されました。腎機能悪化速度も早く、腎生検は抗凝固薬が切れない患者だったので腎生検はできませんでしたが皮膚生検から診断が付きました。

治療に迷っていたところタイムリーにCENに報告が載っていたので読んでみました。

 

Low-dose corticosteroid with mizoribine might be an effective therapy for elderly-onset ISKDC grade VI IgA vasculitis

 
Abstract 
高齢発症型IgA血管炎(IgAV)の診断と予後は、その希少性と併存疾患の存在により困難である。さらに、高齢者発症型IgA血管炎の治療法については、まだ議論の余地がある:コルチコステロイドや免疫抑制剤の理想的な投与量は決定されていない。高齢者ではコルチコステロイドの副作用が重篤転帰をもたらす可能性があり、その有用性とリスクバランスに関するコンセンサスは得られていない。
当院に30日前からの触知可能な紫斑と下腿のpitting edemaの精査のため入院した89歳のIgA血管炎の患者の症例を報告する。
 
腎生検でIgA沈着を伴う膜増殖性糸球体腎炎(International Study of Kidney Disease in Children (ISKDC) grade VI)を認め、それは予後不良の予後予測因子とされていた.
このため早期の低用量コルチコステロイド(15mg/day)とミゾリビンの介入が行われた。
その結果、明らかな副作用を認めず完全寛解が得られた。腎組織検査の結果に基づいた低用量コルチコステロイドとミゾリビンの早期介入は、高齢発症ISKDCグレードVI IgAVに対して有効な治療法である可能性がある。
 
Introduction
・ IgAVは通常、小児が罹患すると考えられているが、高齢者のIgAV症例の報告が増えてきており、高齢者発症IgAVの自然史が明らかにされつつある。
・高齢発症のIgA血管炎は予後が悪く11%が末期腎不全、13%が重度の腎不全、14%が中等度の腎機能障害を来す。
・併存疾患やその希少性のため予後予測が難しい。
 
・高齢者の腎予後はステロイドの積極的な投与で改善すると言われているが、その投与量は定まっておらず、副作用との兼ね合いが重要。
未だ確立されたレジメンはない。
 
 
治療経過
プレドニゾロン15mg/日、ステロイド減量、ミゾリビン(100mg/日)を投与した。
有害事象もなく、腎炎は完全寛解した。
血尿30日目には10-19/HPF,170日目には5-9/HPFに減少した。
血清IgA値は28日目に362mg/dLまで低下。
 
Discussion
・予後予測や他の疾患による腎障害を否定するために腎生検を施行する意義はある。
実際、再発性心内膜炎、MPO-ANCA、全身性エリテマトーデスを伴ったIgAVの報告もある。
腎生検を行う時期についてはコンセンサスはないが、急性腎不全、ネフローゼ症候群、診断が不確実、持続的な蛋白尿(1g/日以上)がでている場合には生検を行うことが適切と考えられている。
高齢者でも、これらの症例では腎生検が推奨される
 
ミゾリビンは、小児期の発症または成人期のIgAV(9~74歳)に有用であることが報告されており、高齢期の発症IgAVの治療にも有用である可能性がある。
ミゾリビンは、副作用の少ない免疫抑制剤である。ミゾリビンはT細胞やB細胞の増殖を抑制し、IgA免疫複合体を抑制する可能性がある。
さらに、ミゾリビンは、おそらくグルココルチコイド受容体と相互作用するHSP 60タンパク質に結合するため、ステロイド節約効果があると考えられている
ミゾリビンのピーク血中濃度1.82±0.58μg/mLがIgAVに有効であることが報告されている。
 
・結論として、腎組織学的所見に基づいた低用量コルチコステロイドとミゾリビンの治療は、高齢発症のISKDCグレードVI IgAV患者に有効である可能性がある。
 
以前からIgA血管炎の治療はIgA腎症に準じて行うことが個人的には多く、扁摘が有用であったという報告も散見されます。ただ、やはり血管炎ですのでIgA腎症に準じた治療では効果が乏しい事もあります。
また、なかなか高齢者には併存疾患のためステロイド投与がしづらい事も多いです。
昨年、IgA血管炎の高齢者にステロイドを投与したところステロイド精神病を合併してしまい苦い思いをしたこともありました。
今回の患者は高齢かつ糖尿病の合併もあるため上記の文献を参考にLow-dose PSLにミゾリビンを併用して早めにステロイドを漸減していく予定としています。
 
 

はじめに。

京都で腎臓内科をやっています。

以前からEvernoteにまとめたり、後進の指導を行っていたのですが流行りに乗って(乗り遅れた感はありますが)日々勉強したことをゆるーくアウトプットしていこうと思います。

腎臓分野だけでは無く、他分野で勉強したことも書いていくつもりですが、あくまでも私的な意見もあると思いますので、臨床応用する時には元文献をあたってみてください。